文部科学省

日本学術振興会


研究計画と研究組織
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基本戦略   |  総括班   | 研究項目A01 | 研究項目A02 | 研究項目A03 | 研究項目A04

研究項目 A01:  人類史の転換点

計画研究1 (A01): 
西アジアにおける現生人類の拡散ルート  -新仮説の検証-

研究代表者: 常木 晃 (筑波大学教授・西アジア考古学・全体の総括)
研究分担者: 大沼 克彦 (国士舘大学教授・石器製作技術・石器研究)
研究分担者: 西山 伸一 (中部大学准教授・イラン考古学・遺跡研究)
研究協力者: Sean Dougherty (ミルウォーキ技術大学講師・古病理学・形質人類学的研究)
研究協力者: Seyed Mireskandari (イラン文化遺産庁考古局長・イラン考古学・遺跡研究)

本研究では、人類史上の最初の大きな転換点となった現生人類(ホモ・サピエンス)のアフリカからの拡散というテーマについて、人類が出アフリカ後に最初に到達した西アジアに焦点を定め、そのルートとその後の足取りを解明します。現在のDNA などに基づく分子生物学の研究成果から提唱された新たな仮説では、ハプログループL3 の人類が7~6 万年前に出アフリカし、その後ハプログループMとNの人々を誕生させて東アジアやヨーロッパに拡散していったと考えられており、特に最初の出アフリカ後の拡散ルートとして、アラビア半島先端経由で南インドにいたるルートが想定されていますが、この場合イラン南部は現生人類拡散の結節点であったことになります。本計画研究では1970年代に日本の調査隊によって発見され、2011 年より本研究代表者が調査を一部再開したイラン南部アルセンジャン地区に所在する中期旧石器時代(10~3 万年前)の洞窟遺跡、オープンエアサイトの本格的な現地調査(発掘・詳細踏査・測量・環境調査など)を実施し、当地域での中期旧石器時代の文化層とそれに伴う化石人骨および石器などの人工遺物の発見をめざします。各計画研究班(特に2,4,5,9,10)と密接に連携し、化石人骨の形態研究による古型・新型ホモ・サピエンスの同定や人骨からのアイソトープ、DNA などの抽出による食性およびハプログループの同定、出土石器の技術的形態的区分による文化系統の同定などの作業を行うことにより、10~3 万年にわたる年代幅での南イランでの人類そのものの在り方を具体的に復元します。

 

計画研究2 (A01):
古代の主食糧としてのコムギ栽培進化プロセスの解明

研究代表者: 丹野 研一 (山口大学助教・考古植物学・総括と全般)
研究分担者: 河原 太八 (京都大学准教授・栽培植物起原学・栽培試験とDNA 分析)
研究分担者: 山根 京子 (岐阜大学助教・植物遺伝育種学・DNA 分析)

本研究の大目標は、世界最古の農耕である西アジア農耕の成立起源とその展開についての全貌解明です。そのなかで本研究課題は、先史農耕の主要作物であるコムギについて、考古植物学および分子遺伝学の両側面からより一層の作物特性を明らかにしようとするものです。本研究で言うところのコムギとは、世界最古の作物であるエンマーコムギとアインコルンコムギです。エンマーコムギとアインコルンコムギは、約1 万年前の西アジアではじまった世界最古の農耕活動において、おそらく主食として栽培された作物であり、人類の「食」の大きな転換の契機となった植物と言えます。本研究では特にエンマーコムギに焦点を当て、その栽培進化プロセスの全体像を明らかにしていきます。エンマーコムギは最古の農作物のひとつで、農耕起源後の主要作物ともなりました。先史時代の食と農作業の実像を見出そうとするためには、エンマーコムギという植物の作物学的・遺伝学的性質について深く理解する工程が欠かせません。本研究では、1) 遺跡から出土するエンマーコムギに対する考古学的な解釈を助けるための、分子遺伝学的な基本データの充実化をはかります。そして、得られた遺伝学データをもとに、2) 遺跡から出土するエンマーコムギ資料を再整理して新解釈が可能か否かを検討したいと考えています。本研究は、領域の各計画研究班(特に1、3、5、9)と様々な資料、情報を共有しつつ、新たな資料やアイデアなどを交換しながら、研究を進めていきます。

 

計画研究3 (A01): 
西アジア先史時代における工芸技術の研究

研究代表者: 三宅 裕 (筑波大学教授・西アジア考古学・研究総括)
研究分担者: 松本 建速 (東海大学准教授・考古学・土器の胎土分析)
研究分担者: 小高 敬寛 (早稲田大学助教・西アジア考古学・土器の分析)
研究分担者: 前田 修 (筑波大学人文社会国際社会比較研究機構・西アジア考古学・石器の研究)
研究協力者: Marie LeMiére (仏オリエント学研究所上席研究員・考古学・土器の鉱物学的研究)
研究協力者: Ünsal Yalçın (ドイツ鉱山博物館研究員・冶金考古学・冶金術の研究)

西アジアにおけるもの作りのあり方は、新石器時代に大きな転換点を迎えます。それまでは石器製作に代表されるように、素材に物理的な力を加え形状を変化させることでもの作りがおこなわれてきました。ところが、新石器時代に移行する頃、素材を高温で熱して化学的な変化を起こさせ、その変化を巧みに利用するもの作りが始まるようになります。それを代表するものとして、石灰や石膏プラスター、土器、銅冶金術などを挙げることができます。こうした新しい技術は、パイロテクノロジー(加熱加工技術)と呼ばれるもので、現代の種々の工業生産技術とも深く関係する画期的なものでした。本研究では、これまでの発掘調査等で出土した古代のプラスター製品、土器や土製品、銅製品などを集成し、その起源や分布の在り方、その後の発展過程を跡づけるとともに、理化学的な分析手法も援用しながらその技術的特性を明らかにすることを目的とします。そして、パイロテクノロジーという視座から、相互の技術的関係についても検討を加え、古代西アジアにおける工芸技術の特徴を総合的に描き出していきます。その際、パイロテクノロジーの発展によって生み出された鉄やガラスなどについても目を配る一方、専業化の程度など、生産様式の在り方も射程に含め、単に技術論に終始するのではなく、工芸技術の特性からそれを生み出した社会の様相にまで迫っていきます。本研究は特に計画研究班1、4、5、11 などと密接に連携して進めます。

 

計画研究4 (A01):
西アジア先史時代の石材供給に関する地質学

研究代表者: 久田 健一郎 (筑波大学教授・地層学・珪質岩の化学分析、研究の総括)
研究分担者: 荒井 章司 (金沢教授・岩石学・オフィオライトの岩石学)
研究分担者: 鎌田 祥仁 (山口大学准教授・古生物学・放散虫化石の年代論)

本研究では、人類史全体にとっての重大な転換点となった、西アジアの旧石器時代から新石器時代に至る長いスパンの遺跡から出土する石器のなかでも、これらの時代において最も基本的石器石材であり続けたいわゆるフリントについて、岩石学的に明確な区分を行うとともに、その原産地と石器石材供給の変遷が地域や時代によりどのように変遷してきたかについて追究することを目的としています。従来、西アジアやヨーロッパ考古学の分野では、石器に適した岩相として、国際的にフリントという名称を与えてきました。しかしながら本研究代表者がすでに指摘したように、フリントの名称は地質学の分野ではほとんど使用されることはなく、むしろ岩相特定を阻害するものであり、好ましい岩相名ではありません(Hisada 2008)。これらは例えば、1)珪質ノジュール、2)放散虫チャート、3)放散虫岩などと明確に区分すべきです。本研究では、イランとシリアをフィールドとして、実際に旧石器時代~新石器時代遺跡から出土している石器群を対象に、非破壊を求められる石器や装身具の岩相を地質調査で得られた知見をもとに同定します。また遺跡周辺の踏査で原産地を同定し、その石材供給源を検討します。これらの調査の成果に基づき、領域の各計画研究班(特に1,3,12)と連携し、地域や時代により石器石材供給の在り方がどのように変遷していったのかについて具体的に議論を進めていきます。

 

計画研究5 (A01):
西アジア都市文明の資源基盤と環境

研究代表者: 本郷 一美 (総合研究大学院大学准教授・動物考古学・研究総括)
研究分担者: 姉崎 智子 (群馬県立自然史博物館研究員・動物考古学・出土動物骨の同定と計測)
連携研究者: 米田 穣 (東京大学准教授・先史人類学・動物骨の安定同位体分析)
研究協力者: Eva-Maria Geigl (Institut Jacques Monod 研究員・ウシ、ヤギ、ヒツジの古DNA分析)
研究協力者: Marjan Mashkour (パリ自然史博物館、CNRS 研究員・動物考古学・イランの遺跡出土骨の分析)

従来の動物考古学的研究により、現在のシリア北部、トルコ单東部、イラン北西部にあたる「肥沃な三日月弧」の北部は、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタの家畜化の中心地域であったことがわかっています。本研究代表者は、この地域の遺跡から出土した動物遺存体資料を用いて、家畜化の進行過程と牧畜技術の発達や多様化に関する研究を継続してきました。これまでの研究で、約11000 年前に家畜が飼育され始めてから千年余りかかって、おそらく乳製品や羊毛などの二次的生産物の利用技術の発達を経て牧畜が生業の重要な基盤として確立したことがわかりました。農耕と牧畜による食糧生産は、古代都市文明社会の成立につながる社会システムの発達を促し、都市の生業的基盤となります。一方で食糧生産の拡大と集約化は野生動物資源の減少など、居住地周辺の環境変化をもたらし、牧畜への依存をさらに強めることとなりました。本研究は、家畜飼育の開始と牧畜技術の発達過程を明らかにし、都市文明社会の成立にいたる社会・経済の複雑化と環境史の両側面から考察します。近年、欧米の研究者を中心に、出土骨の種同定や形態に関する動物考古学的な研究と、古DNAや動物骨に含まれる安定同位体の分析などを組み合わせ、西アジアの環境史と家畜化および家畜の伝播を明らかにしようとする研究が盛んになっています。本研究も、領域内の各研究者との連携に加えて、国内外の動物考古学、安定同位体比分析、古DNA 分析などの物理・分子生物学的研究の専門の研究者からなるチームによる共同研究です。