研究交流の概要

研究交流目標

古代の西アジアでは、地球上の他の地域に先駆けて農耕、牧畜、冶金、書字術といった革新的な技術が発明され、さらに、都市や国家のような人間社会の根本制度や数学、一神教的な宗教伝統も誕生しました。人類史に絶大なインパクトを残した古代西アジアの歴史は単なる地域史に留まらず、現在まで続く人類共有のグローバルな文明史における「最初の1ページ」と言えます。この文化遺産は、人類社会全体にとって価値のある財産となっています。
この古代西アジアの研究は、近代西欧による植民地政策のなかで東洋学(オリエント学)の一分野として始まりました。現在では西アジア現地を含む世界各地で研究が推進されているものの、研究の中心は今もヨーロッパにあり、古代西アジアにおける人類文明の黎明は専ら「西欧史観」の枠組みの中で研究されています。この問題はヨーロッパや西アジア現地の専門家も熟知しており、「支配・被支配」、「研究主体・研究客体」の枠組みを脱却した古代西アジア研究の真のグローバル化が志向されています。しかし、それはヨーロッパ・現地とは異なる「第三極」の研究拠点による協力なしには叶いません。

この状況の中、我が国においても20世紀後半頃から古代西アジア研究は言語学・歴史学・考古学などの各分野において推進され、国際的に高い評価を受けてきました。さらに、戦争などによって疲弊した西アジアの文化遺産の保護活動も我が国のイニシアティブによって進められ、日本は「第三極」の筆頭として名乗りを上げています。特に筑波大学には2021年度に重点育成研究拠点として古代西アジアを包括的に研究する「西アジア文明研究センター」が設立され、国際拠点形成の基礎が敷かれています。

本計画では、これまで各分野において個別に作られてきたネットワークを統合・拡充し、組織的かつ分野横断的な研究交流を実施することによって、現地、ヨーロッパ、そして第三極との世界共同で古代西アジアを研究し、文化遺産の保護と活用のための協働体制を築きます。それによってヨーロッパの植民地政策によって押し付けられてきた歴史観を脱却し、グローバルな市民が共有できる新しい歴史観の構築を目指した国際研究拠点を我が国に建設します。各地の研究拠点との国際共同により、次世代を育成するプラットフォームの構築にも努め、この国際拠点を持続可能なものにします。

研究交流計画

本事業は、ヨーロッパにおける古代西アジア研究の諸分野において長きに亘り重責を担ってきたドイツのミュンヘン大学、イギリスのマンチェスター大学、オーストリアのウィーン大学、イタリアのトゥーシア大学、そして西アジア現地にあって研究を牽引するイスラエルのエルサレム・ヘブライ大学を交流相手とし、研究拠点の形成に直結する基礎的研究とそれら基礎的研究と連動する応用研究を共同で実施します(追加の研究課題も予定しています)。

基礎的研究

  • R1「考古学と地球科学の連携による
    考古資料分析拠点の形成」
  • R2「古代西アジア言語・
    歴史ナレッジベースの建設」
  • R3「文化遺産の社会的・
    学術的活用の開発」

応用研究

  • R4「古代西アジアにおける
    人間と動物の関係」
  • R5「知の人類史における
    古代西アジアの知の伝統」

これらの共同研究を進行させるため、参加研究者、特に若手研究者は交流相手の研究機関に相互に滞在します。さらに、共同研究に関連する主題のセミナー、分野横断の大規模シンポジウムや専門的なワークショップは、参加国が持ち回りで開催します。研究交流には、イラクからの協力研究者もゲストとしての参加が予定されています。