西アジアの地震活動
研 究 概 要
西アジアは、地殻変動が活発な地域であり、多くの大地震が発生している地域です。これらの大地震は周辺の人間活動に大きな影響を及ぼすことが知られています。例えば、1999年にトルコ、イズミットを襲ったM7.4の大地震、2003年に世界遺産バムを襲ったM6.7の大地震、2005年にパキスタンを襲ったM7.6の大地震と、近年においても数多くの大地震が発生しています。前触れもなく、破壊的な災害を引き起こす大地震という自然現象は、古代の西アジアの人々の人生観に影響を与えたことでしょう。
一方で、西アジアでは地震計観測網が整備されておらず、豊富な地震学的な知識が必ずしも蓄積されているとは言えません。本研究では、過去の西アジアの地震活動を理解し、将来どのような地震が西アジアを襲う可能性があるのかについて議論することを目的に研究を行います。特に、西アジアのプレート内地震(プレートの内部で発生する地震)では、複雑な破壊伝播過程が存在することが知られています。本研究では、何故、複雑な破壊が発生するのか、その理由について迫りたいと考えています。
トルコの地震活動
今年度はトルコをフィールドとして、イスタンブール工科大学のTuncay Taymaz教授やOğuz Cem Çelik教授と共同して研究を開始しました。両名は2012年11月に来日し、筑波大学の地質学セミナーにて、トルコの地震活動や建築史について発表しました。トルコ近辺のテクトニクスと、トルコでのプレートの動きを図1に示します。ベクトルは、ヨーロッパプレートが動いていないと仮定した場合の動きを示しています。
トルコで繰り返し大地震を起こしているのは、北アナトリア断層で、ヨーロッパプレートとアナトリアプレートの境界です。1999年にトルコ、イズミットを襲った大地震は、この断層で発生しています。南側では、アフリカプレートがアナトリアプレートの下に年間約1.1 cmの割合で沈み込んでおり、この沈み込み帯周辺で、時々巨大地震が発生します。365年にクレタ島周辺で発生した巨大地震は、M8.5クラスであったとも言われており、この地震による津波は、ギリシャ沿岸だけではなく、古代都市であるアレキサンドリアや、イスラエルに大きな被害をもたらしたことが知られています。
アラビアプレートとアナトリアプレートの境界周辺でも、時折大地震が発生します。2011年10月23日にヴァン湖周辺でM7.1の地震が発生しました。グリーン関数の不確定性を考慮した震源過程解析で得られた、この地震の最終的なすべり量分布を図2に示します。震源付近で、20km×20km の狭い範囲に断層すべりが集中しており、最大すべり量は4mにも達します。破壊は、震源付近で大きな破壊が発生した後に、南西方向に進行したことが分かります。逆断層であることを考慮すると、この断層の延長上かつ破壊伝播方向の狭い範囲で強い強震動が発生したことが分かります。
複雑な地震を解析するための手法開発
複雑な破壊過程を有する地震を適切に解析するためのプログラム開発は、本研究の目的の一つです。西アジアでは、複数の異なる断層メカニズムを持つ断層が同時に破壊する地震が発生することが知られています。このような地震を解析するためには、断層面の仮定をすることなく、断層破壊の伝播を求める手法が必要になります。我々は、断層面の形状を仮定することなく震源像を求めるために、グリーン関数の不確定性を考慮し、かつ断層形状を仮定する必要がない震源過程解析手法を開発しています。
2012年8月11日にイラン北西部でM6.4の地震が発生しました。新しい解析手法で得られた最終的な震源メカニズム解の分布を図3に示します。新しい解析手法によって、震源付近では横ずれ断層成分が、西側では逆断層成分が卓越しており、複数の断層が連動したことが分かりました。
研究代表者: 八木 勇治(筑波大学・地震学・解析、議論、総括)