2006年と2008年の調査で土壌サンプルが採取され、ウォーター・フローテーション法により炭化物が回収されました。分析は現在も進行中ですが、そのうち2006年に採取された8サンプルの炭化物が実体顕微鏡下で観察され、植物の種類が同定されています。
表に示したように、圧倒的に多いのはコムギの種子(片)と穂軸(片)で、すべてのサンプルに含まれています。コムギの種類はエンマーコムギがほとんどですが、大粒のアインコルンコムギはエンマーコムギと形態が酷似することから、アインコルンコムギが少数含まれている可能性もあります。次に多い植物はオオムギで、コムギにくらべるとその数はおよそ1/10ほどです。コムギとオオムギは脱穀時につけられた穂軸の傷痕に基づいて栽培型・野生型の判別が可能ですが、本資料の場合コムギの数は多いものの損傷がはげしく、オオムギは数が少ないため更なる調査が必要です。
マメ類ではレンズマメ Lens sp.、レンリソウ Lathyrus 属(おそらくガラスマメ)が含まれます。その他の有用植物としては、ピスタチオ Pistacia sp.の殻片とアマ Linum sp. 属種子があげられます。また用途は不明ですが、北レヴァントのPPNA~PPNB期に多く出土する Ziziphora 属(シソ科)とハネガヤ Stipa 属(イネ科)の種子も若干含まれています。いわゆる雑草としては、スズメノチャヒキBromus 属(イネ科)、ウマゴヤシ Medicago 属(マメ科)、モウズイカ Verbascum 属(ゴマノハグサ科)、キク科、ヤエムグラ Galium 属(アカネ科)、ナデシコ科、アオイ科の種子がみられます。これらは住居周辺あるいは畑の随伴雑草であった可能性と、燃料として使用された動物の糞に含まれていた可能性の両方が考えられますが、現時点では後者だと積極的に主張できるほど大量に出土しているわけではありません。
炭化材についても9点ほどの観察がおこなわれ、トネリコ Fraxinus sp.(7点)、ポプラ/ヤナギ Populus sp. or Salix sp. (1点)、アシ Fragmites sp.(1点)が同定されています。これらはすべて河川沿いによく生育する植物種であることから、当時も今と変わらず遺跡付近を川が流れ、人々が河川林に依存した生活を送っていた様子がわかります。
出土植物同定結果(2008年調査分)