土器
出土した土器は、概ね北メソポタミアの土器新石器時代に典型的なタイプの土器といえます。土器の様相の違いに基づいて、新石器時代の層を大きく3 つの時期に区分できます。全体としては、胎土に鉱物粒を含む磨研土器からスサを含む粗製土器への変化、あるいは最古段階のタイプの土器から、プロト・ハッスーナ式の土器への変化として捉えることができます。
1 期の土器
最古の土器群は、鉱物粒を混和する磨研土器が主体です。これらはさらにいくつかのグループに細分することが可能ですが、中でも大粒の鉱物粒を大量に混和する磨研土器の存在が特徴的です。器面はていねいに磨研され、色調は暗灰色を中心とした暗色系と、明褐色から淡赤褐色を中心とする明色系のものが共に認められます。一般に焼成は良好であるといえ、完全に酸化され断面に黒芯が認められない例も多くみられます。器壁は厚手のものが多く、中には20mm を超えるものもあります。このほか、量的には多くないものの、鉱物粒とともにスサが少量混和される土器もこの時期の上層を中心に出土しています。ただし、混和される植物繊維は細かく、量的にもさほど目立つものではありません。器形のヴァリエーションは少なく、どれも明瞭な頸部や屈曲部をもたない単純な器形のものばかりです。鉢形も認められるものの、割合としては深鉢形が中心で、後者には口縁部下に突起状の把が付く例があり、数は少ないものの水平方向に穿孔された把手も出土しています。底部は平底であり、厚みのある胴部がほぼ垂直に立ち上がるものが特徴的です。装飾の施される土器はほとんどありませんが、2008 年の調査では彩文土器が数点出土しています。 こうした1 期の土器群に類似する資料は、ユーフラテス川流域からハブール川流域にかけての地域で知られており、その多くが先土器新石器時代の層の直上から検出されています。本遺跡では先土器新石器時代の層は確認されていないものの、それに類似する土器が出土した1 期は、土器新石器時代の初頭に年代付けられると思われます。
2 期の土器
2 期になると、土器の様相に顕著な変化があらわれ、それまでの鉱物の混和される磨研土器に代わり、スサを混和する土器が主体となります。大量に混和される粗いスサは器面にもその痕跡を明瞭にとどめ、器面の調整もナデによるものが中心となります。器面の色調は黄褐色から赤褐色の明色系のものがほとんどで、暗色系のものはごく僅かになります。断面にはほぼ例外なく明瞭な黒芯を認めることができますが、これは焼成法の変化というよりも混和物が大きく影響していると考えられます。こうした土器の変化は漸移的なものであり、1 期と2期の間に断絶があるわけではありません。2 期の下層では、鉱物を混和する磨研土器も少ないながら依然として認められ、スサを混和する土器の中にも器面が磨研されているものが比較的多く出土しています。
器形は依然として単純な形のものが中心で、浅鉢形や半球形状の鉢形などの割合が1 期より増加しますが、主体となるのは深鉢形です。突起状の把手や水平方向に穿孔された把手が1 期から継続して認められる一方で、この時期に特徴的な口唇部に三日月形の把手が付加される例もみられるようになります。
鉱物粒の混和される磨研土器からスサの混和される粗製土器へという変化は、北メソポタミアにおいても同様に認められる現象であり、南東アナトリアのティグリス川流域は、基本的に北メソポタミアと歩みを共にしていたと考えることができます。しかしその一方で、この時期になると一部の土器の要素の中に地域的な差違も徐々に顕在化してきます。ユーフラテス川からバリフ川流域にかけての地域では、本遺跡では出土していない口縁下にめぐらされる突帯や橋状把手の存在が特徴的である反面、本遺跡で一般的な突起状の把手はほとんど認められません。
3 期の土器
3 期の土器はスサを混和する粗製土器が引き続き主体となっており、2 期からの伝統上にいくつかの新しい要素が加わるものとして捉えられます。土器の出土量は明らかに増加し、相当量の土器が得られています。スサを混和する粗製土器には、単純な器形のものに加え、明確な頸部を有す壺形、キャリネーション(屈曲部)をもった浅鉢形や壺形、ハスキング・トレイといった新たな器形がみられるようになります。また、この土器群に貼付文による装飾が施されるようになることも大きな特徴です。粘土粒を貼り付けただけの単純なものが中心ですが、中には人物を模したものや波線状の例も認められます。薄手で比較的小型の精製土器群は2 期にはまったくみられなかったもので、粒子の細かい精選された粘土が用いられ、細かい鉱物粒が混和されています。胎土や器面調整の特徴によっていくつかのグループに細分することができ、大きくは暗色系と赤色系に分けることができます。両者とも器面はていねいに磨研され光沢を放ち、赤色系のものには明瞭にウォッシュの施された例が認められます。器形は鉢形が中心です。数は少ないものの彩文土器も出土しており、胎土は精選された粘土に細かい鉱物粒が混和された精製土器といえます。器面は軽く磨研されており、その上に赤色系の艶消し彩文が施されています。3 期の土器群は、北イラクの遺跡を基に設定されたプロト・ハッスーナ期の土器に近い内容を有していると評価することができます。これまで、その分布はハブール川流域から北イラクに限定されるとみられてきましたが、本遺跡での発見により南東アナトリアにまで広がっていたことが明らかになりました。