文部科学省日本学術振興会 |
基本的な研究戦略 本領域研究ではA01「人類史の転換点」、A02「史料から見た都市性の解明」、A03「古環境と人間社会」、 A04「文化遺産の保存」の4 つの研究項目を設けます。西アジア文明の特質はその先進性と普遍性にあり、それをもたらした歴史プロセスの形成と発展を探るためにA01、A02 の研究項目が設けられています。両者は、A01が主として考古学や地質学、動植物考古学など物質文化に基づいて研究を行うのに対して、A02 は文献史料主に依拠するという方法論の違いに過ぎません。これらの研究項目に所属する計画研究および公募研究では、古代西アジアで最も重要な人類史の転換点にそれぞれ新たな視点から取り組みますが、一見バラバラに見えるこれらのテーマは全て先進性と普遍性という1 本の糸で繋がっています。先進性とは、史上最も早く人類史上のイベントや転換が生じたことを指し、普遍性とはそのイベントや転換がこの地域で収束せずに世界的規模に拡散、展開したことを指します。両者が相互に深く関連しあうことはもちろんで、この連関を強く意識しつつ、A01、A02 所属の各計画研究班はそれぞれのテーマの解明を進めていきます。公募研究は、計画研究班では包括できていないテーマについて計画研究班と協力して研究を進めます。 A03 に所属する計画研究は、これら人類史の転換点となったテーマの解明を背後から支援するとともに、項目全体としては様々な研究分野を有機的に結びつけ、西アジアの人間社会の歴史と自然環境との関連を体系づけていきます。自然環境が西アジア文明の特質を準備する重要な要素になっていたと考えられるからです。また、本領域研究のフィールドである西アジア諸国から研究資料を得るばかりでなく、研究成果を還元しその社会に貢献すべきであると考え、文化財の保存を担うA04 を設けました。本項目の研究計画では、文化財保存のための研究を行うとともに、西アジア地域で実際の保存事業も実施していきます。
本領域研究における具体的研究内容 研究項目A01 では、西アジアにおける現生人類の登場から初期の都市が形成されるまでの、ヒトの拡散、石器石材調達、農耕開始、牧畜の展開、冶金術の発達といったイベント・転換を人類史上の一連の大革新と捉え、それぞれのプロセスをフィールドワークで得た一次資料に基づいて実証的に解明していきます。これらの実証的テーマとして、ヒトの拡散については南イランでの現生人類拡散ルートに関する新仮説の検証、石器石材調達については地質調査による供給地とそのルート変化の解明、農耕開始については形態とDNA に基づくコムギの栽培進化プロセスの解明、牧畜の展開では動物考古学的手法に同位体、DNA 分析を融合させた手法による動物飼養プロセスの解明、冶金術についてはパイロテクノロジーの視点による考古遺物の整理分析といった研究を担っていきます。研究項目A02 では、西アジアにおいて都市が形成され国家が発展していく中で様々に表出した都市性に焦点を絞り、文字通り楔形文書を読み解いていくことで、この新しい生活様式をもたらしたものは何かについて具体的に追究します。A01 と同様に一次史料に基づいた実証的テーマが準備されます。紀元前二千年紀ハブル川中流域の小国家の実態、エマル王国などユーフラテス川中流域をはじめとする周辺アッカド語文書にみる政治と宗教、バビロニアやアッシリアの国家運営にあたっての祭儀の役割などが個別テーマとなります。研究項目A03 では、主としてA01 の各研究班と連携し資料提供を受けて自然科学的分析を実施するとともに、フィールド調査や遺跡調査を実施し、西アジアの自然環境史の構築を図ります。主な分析調査実施項目は、人骨・動物骨などの多元素同位体比分析、石器・土器などの走査型電子顕微鏡・エネルギー分散型X 線分析、地層・遺跡探査のための地中レーダー・帯磁率異方性測定などです。研究項目A04 は他の研究項目と連携しつつ、西アジア諸国での文化財保存状況の調査研究と文化財保存事業への貢献を模索していきます。文化財保存のための調査として、蛍光X 線などを用いた非破壊元素分析、ELISA法など抗原抗体反応分析やGC/MS 分析などを実施し、文化財保存のための新たな分析法の開発も行います。 各研究項目、計画研究の必要性及び研究項目間、計画研究間の有機的連携を図るための方法 平成24 年度には最初のフィールド調査を各研究項目で実施します。フィールド調査は、すでにそれぞれの計画研究班で実績を有するトルコ、イラン、シリアなどにおいて、夏季を中心に実施を予定しています。A01~A04 すべての研究項目に所属する研究計画班がフィールド調査に参加します。実験分析を担当するA03 研究項目各班も試料採取と現地での環境科学調査を行うためにフィールドに帯同します。フィールドから帰国後に資料整理などを行うとともに、各計画研究班どうしが研究成果を最も有効に生かせるように、研究会やシンポジウム、大学院生教育プログラムなどを通じて日常的に共同研究を進めていきます。平成25年度~平成27年度にも、同様に各フィールド調査を継続し、それぞれの研究テーマの深化と各研究班の連携を図っていきます。連携には総括班が1 年に5 回ほど開催する研究会が活用されます。また平成25年度および平成27年度には国内外から研究者を招聘して研究項目単位でのシンポジウムを開催するとともに、領域全体として外部評価を実施します。 平成28年度、5年目にあたる最終年度は、フィールド調査は補足程度にとどめ、国内において領域全体のシンポジウムを開催し、研究成果をまとめていきます。総括班による研究会・シンポジウム・教育プログラムを通じた取りまとめの活動が重要になります。特に各計画研究の研究テーマにおける歴史プロセスが変遷した要因の抽出とその比較を行っていく中で、西アジア文明の先進性・普遍性を創出した要件(特に人文的環境要件)の整理を進めていきます。その要件こそが現代文明の基層となった西アジア文明の本質と言え、それに沿って現代文明はどのように見えるのかを議論します。領域全体のシンポジウム成果を報告書として取りまとめるとともに、新たな西アジア像を、研究成果とともに一般に向けて積極的に発信していきます。
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