文部科学省

日本学術振興会


研究計画と研究組織
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基本戦略   |  総括班   | 研究項目A01 | 研究項目A02 | 研究項目A03 | 研究項目A04

研究項目 A03:  古環境と人間社会

計画研究9 (A03):
多元素同位体分析による古代西アジアにおける古環境復元

研究代表者: 丸岡 照幸 (筑波大学准教授・地球化学・総括、軽元素同位体比分析)
研究分担者: 池端 慶 (筑波大学助教・岩石学、地球化学、Sr 同位体分析)
連携研究者: 柴田 智郎 (北海道立総合研究機構研究員・地球科学・CT イメージ解析)
連携研究者: 上松 佐知子 (筑波大学准教授、古生物学・CT イメージ解析)
連携研究者: 西尾嘉朗 (海洋研究開発機構研究員・地球化学・Sr 同位体分析)

本研究では人類や他の生物の骨や歯などの考古資料を用いて、そこから同位体比情報を抽出し、西アジアの環境変動を読み解いていきます。骨・歯由来コラーゲンの炭素・窒素同位体比測定は非常に精力的に行われています。これらの同位体比を組みあわせることで、主に食性の
復元が試みられています。しかし、環境を読み取る目的に同位体比分析が行われた例は極めて少なく、それは考古資料の持つ本質的な「難点」によります。1 点の資料に関しての情報では、そこから多元素同位体比のデータが得られたとしても、その意味するところを理解するのは容易ではありません。(樹木年輪資料でも年輪ひとつだけを取り出しても解釈はできません。)しかし、統計的に扱える程度に個体数があれば、どの同位体比とどの同位体比がどれくらい関連しているのかに関して「多変量解析」を用いることで明らかにすることができます。個体差に起因する成分は環境情報を読み取るためには不要ですが、多変量解析により個体差を計算で取りのぞいた「環境」に固有の同位体比組成を引き出すことができます。本研究ではこのように多変量解析と多元素同位体比分析を利用して、西アジアにおいて環境がどのように空間的に、時間的に変遷したのかを読み取りたいと考えています。

 

計画研究10 (A03):
堆積物に記録される西アジアにおける第四紀環境変動の解読

研究代表者: 安間 了 (筑波大学講師・地質学・研究全般)
研究協力者: Yildirim Dilek (Miami University 教授・地質学・地質調査)

第四紀は人類紀ともよばれ、東アフリカで人類の祖先が誕生し拡散していく過程を考える上で、その時代を通しての環境変動を解き明かすことは最重要課題です。本研究では、新学術領域のフォーカスである古代西アジア文明の成立と変遷を考えるうえで特に重要である第四紀完新 世の環境変動を遺跡ごとに解き明かしていくことで、文明の変遷と地域環境変動のリンクを明らかにしていきます。完新世の西アジアにはおよそ5600 年前に起きたと考えられる黒海の洪水など、アジアとヨーロッパを隔てるボスポラス海峡・ダーダネルス海峡の成立に関わる重要なイベントが生じています。このような黒海変動は、縄文海進として知られる凡地球的な温暖化現象とリンクしています。また西アジアには第一級のプレート境界があり、ことに北アナトリア断層や東アナトリア断層に沿って度重なる地震被害を受けてきました。また、死海リフト帯などでも大規模な地震により被害を被ったと考えられる遺跡が知られています。活構造の分布も知られています。本研究では、遺跡近傍のため池や湖沼などから、第四紀堆積物の分布状況と積み重なり方を調べ、柱状試料を採取し、これに含まれる珪藻・花粉等の微化石、磁性、堆積物を充填する膠着物質の性質や年代などを調べることによって、第四紀環境変動をそれぞれのサイトから明らかにしていきます。また、地震が生じた証拠などは堆積物の液状化やタービダイト層の分布等によっても推定されます。それらの情報を総合的に集めながら、特に計画研究1、2、5、9,11 と密接に連携しつつ、西アジアにおける完新世環境変動史を明らかにし、それらが古代西アジア文明の成立と変遷にどのようにリンクしていたのかを考えます。

 

計画研究11 (A03):
西アジアの地震活動

研究代表者: 八木 勇治 (筑波大学准教授・地震学・解析、議論、総括)

西アジアは、地球上で活発に固体地球が変動している地域で、結果として多くの地震が発生しています。例えば、1999 年にトルコ、イズミットを襲った大地震のように、その地域の人間活動に影響を及ぼします。2003 年には世界遺産でもバムを襲った地震が発生しました。このようにほぼ前触れもなく、破壊的な災害が発生する地震という現象は、古代の西アジアの人々の人生観に強い影響を与えたと考えられます。特に、西アジアのプレート内地震(プレートの内部で発生する地震)は複雑な破壊が発生することが指摘されています。本研究では、何故、西アジアでは複雑な破壊が発生するのか、その理由に迫ります。複雑な破壊過程を有する地震を解析するためには、良く用いられている断層破壊を解析するプログラムでは困難です。応募者である八木は、逆解析理論に関わる論文を国際雑誌に複数発表しており、複雑な震源過程を求めるプログラムの一部は既に開発済みです。方法としては、本地域の現地機関の観測データに基づいた解析を試みるとともに、全世界の地震計観測網のデータを使用して、double-difference 震源決定法を遠地データで使用できるようにしたプログラムを使用して、西アジアの高精度な震源分布を求め、西アジアの古代遺跡周辺やオアシス周辺の地震活動について調べます。1990 年代以降は、全世界で高精度な地面の揺れの記録があり地震波形が収録されています。これらの波形を使用して、地震時にどのような破壊が発生したのかその過程(震源過程)調べ、得られた震源過程モデルから、現地での強震動を計算して、西アジアで発生する地震動の特徴について議論します。一方で、領域の多くの計画研究と連携して、西アジアの遺跡に残されている地震の痕跡を調査し、それから予想される西アジア古代の長期にわたる震源過程モデルについても議論を行います。

 

計画研究12 (A03): 
西アジア古代遺跡の石器・土器の組成・微細組織データベース

研究代表者: 黒澤 正紀 (筑波大学准教授・鉱物学・分析と総括)
連携研究者: 笹 公和 (筑波大学准教授・加速器物理学・分析)

古代西アジア文明黎明期の文化の伝播・拡散過程の解明においては、石器、土器、ガラス、鉄器、骨角器材など、遺物として残りやすい固体材料の詳細なデータが重要となります。特に、トルコ石、ラピスラズリ、金など、原産地が限られる装飾品は物の移動や富の形成についての有力情報になります。これらの物質の同定、産地同定にはその化学組成が、加工プロセスや使用法、使用状況の解析には表面の微細組織の情報が有用ですが、西アジア全域に広がる遺跡の出土物についての統一的なデータベースは殆ど構築されていません。これは、多くの遺物に表面の風化・劣化があるために肉眼や実体顕微鏡等では物質の同定すら難しいにもかかわらず、電子顕微鏡などを用いた組織的な遺物情報の分析・抽出が実施されていなかったこと、さらに我国では発掘に携わる考古学専門家と物質科学の専門である地質学・岩石学・鉱物学の研究者との連携が少なかったことに原因があります。そこで本申請では、石器・土器など固体材料の表面および断面の微細組織・化学的組成をもとに、原産地・製作方法・使用状況・伝播状況を把握する目的で、考古学者と地質学者の共同研究のもと、遺物の分析とその情報データベースの作成を試みます。具体的には、エネルギー分散型X線分析装置を備えた走査型電子顕微鏡(SEM-SEM)を用いて、石器・土器などの組成・組織を非破壊で分析し、物質同定・原産地推定・材料伝播および遺物の製作・使用方法の解明にどのような情報が必要かを明らかにします。また、それらを通じて遺物の分析情報をデータベース化します。原産地推定では、必要であれば、西アジアの岩石・鉱物試料(フリントや珪質泥岩、トルコ石、ラピスラズリ、黒曜石など)の収集も行います。