中世から現代に至るまでの西アジア諸都市の地理的変遷とネットワークの推移の通時的把握を行い、宗教的・民族的に多様な「イスラーム都市」の構造を分析し、異なる文化的帰属意識を持つ多様な住民の共生・対立と文化財保全の在り方、災害からの都市の復興などに注目して、西アジア都市の重層的構造を分析する。
中世から近世・近代西アジアのイスラーム都市を対象とし、1)政治的経済的中核都市とその都市文化圏となる広域ネットワークの地理空間的変容過程、2)伝統的都市の社会空間と都市を支えるイスラーム的都市文化、3)西アジアの内陸部と沿岸部における都市形成とその時代性(特に近世・近代)に着目し、「都市」を中心とした地域ネットワークの構造と盛衰、および「イスラーム都市」の社会構造やその機能の再考を試みる。エジプトからシリア・イラク・イランに広がる西アジア全域を総体的に俯瞰した上で、カイロやダマスクス、イスファハーンといった中核都市を対象に、街区や都市域の拡大、非ムスリム住民の居住区、および市場や隊商宿等の商業施設やモスク・教会等の宗教活動の拠点について、多言語による文献史料の利用とフィールド調査をもとに検討する。加えて、地理空間情報システム(GIS)を積極的に利用し、都市の空間構造や地域間ネットワークの通時代的変容過程の可視化に努める。なお、本計画研究では、研究史上看過されてきた古代との連続性を重視し、多様な宗教共同体を内包したイスラーム都市の重層的・多面的な構造からイスラーム時代の西アジア都市と都市文明の特徴を考察する。
一連の考古学的・歴史学的研究の進捗を踏まえつつ、本計画研究では、現代的視点から都市文明の本質に光をあてる。西アジア地域には、数千年の歴史を誇る魅力的な都市が多く存在する。稠密な都市空間に採光と通風をもたらす中庭や、住民のプライヴァシーを守る袋小路、キリスト教会とモスクの隣接・連携した空間は、地域に固有の生活文化の受け皿としても重要である。また、歴史の途上において破壊、廃棄され、今日では遺跡を残すのみとなった都市空間もまた、かつて多様な文化が共生し重層的に蓄積されてきたことを証言する文化遺産として意義を持つものである。すなわち歴史都市に対する現代的視点からのアプローチとは、具体的には、都市を現代社会に位置づけ、保全・継承していくための展望を得ることを意味する。本計画研究は、人口急増に伴う都市の計画的拡張や、歴史的空間の保全と継承、多様な価値観の共存がもたらすレジリエンス、防災・復興といった課題を展望し、国際協力に基づき実施される都市計画、戦災・災害復興、文化財保全といった、「都市の本質」の現代的継承のための指針を提示する。対象地域は、西アジア(北アフリカを含む)地域の歴史都市を広く選定するが、特にトルコ、シリア、レバノン、アフガニスタン、アルジェリアの歴史都市を主題的な対象とする。加えて、西アジアは地中海世界を通じてヨーロッパとつながり、シルクロードを通じてアジアともつながっていたことから、隣接地域の都市も比較研究の対象としてとりあげる。
Copyright © 2018 The Essence of Urban Civilization: An Interdisciplinary Study of the Origin and Transformation of Ancient West Asian Cities.